2010年代に入りLEDが世の中に普及するまで、街路灯、体育館、工場や倉庫など、高いところから照らす照明として水銀灯が多く使用されていました。
しかし、地球温暖化問題などがきっかけとなり、世界的な省エネ意識は高まり、エネルギー効率を重視されるようになったことや、日本では、東日本大震災の電力不足もきっかけとなり、LEDの普及が拡大しています。
水銀灯はその名の通り、水銀が使用された照明です。環境意識への高まりから水銀使用照明は、処分方法も注意が必要です。
その処分方法や、水銀灯に代わる照明についてご紹介します。
なぜ水銀灯は廃止になった
はじめに、水銀灯の廃止が決定となった条約について、紹介します。
廃止になった背景
水銀灯が廃止となった理由・背景として、やはり水俣病の存在が挙げられます。
化学工業会社が工場廃液を海に流していたことで、水銀に汚染された魚介類を食べた人たちが中枢神経疾患に侵されました。
水銀は環境や人体に悪影響を及ぼす有害物質であり、蓄積性や生物濃縮性の問題が認識されています。
同様の公害事件は世界各国で起こっており、その対策方法として「水銀に関する水俣条約」が締結されました。この条約は、2013年10月に熊本で開催された「水銀に関する水俣条約外交会議」において、全会一致で採択・署名されました。
92か国の条約の内容は主に、以下の通りです。
- 水銀使用製品(体温計・照明器具、血圧計など)の製造・輸出入禁止
- 水銀を使用する製造工程の禁止
- 水銀鉱山の新規開発の禁止
- 大気、土壌・水への放出規制
条約の目的は、水銀や水銀を含む製品から排出される健康被害や環境汚染の防止です。日本では2017年から施行されており、経済産業省の監督のもとで水銀含有製品の製造や輸入が段階的に厳しく制限されるようになりました。
(参照:環境省)
いつから廃止になった?
水銀灯の廃止は、前述の「水銀に関する水俣条約外交会議」で採決され水銀の含有量に関わらず2021年以降の製造・輸出入は禁止となりました。
廃止期限後においても在庫品の流通・販売や既存製品の使用は可能です。また、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、紫外線ランプなどの一般照明用以外の特殊用途用ランプも規制対象外となっています。
いつまでに処分しないといけないのか?
水銀灯の処分期限は設けられていないため、設置済みのランプを直ぐに取り換える必要があるというわけではありません。
しかし、2021年以降一般照明用の水銀灯製造や輸入が禁止されていることや、水銀灯を在庫している電材商社などが限られていることから今後入手性が悪くなることが考えられます。また、省エネの観点からも早く置き換えられることが推奨されています。
蛍光灯も廃止対象に
水銀灯が2021年より製造・輸出入禁止となったことはまだ記憶に新しいですが、実は蛍光灯も段階的な廃止が既に決定しています。蛍光灯の廃止は、2023年11月にスイス・ジュネーブで開催された「水銀に関する水俣条約 第5回締約国会議」にて決定し、環境省『一般照明用の蛍光ランプに関する規制』(一部抜粋)では、以下のように説明されています。
水銀添加製品である一般照明用の蛍光ランプ(住宅、事務所、工場、店舗、作業現場、街路灯等で一般的に使用されている蛍光ランプ)を、その種類に応じて、2025年末から2027年末までに製造及び輸出入を段階的に廃止することが決定されました。
2027年12月31日が廃止日のため、いつから蛍光灯が廃止になるかと言うと2028年1月1日です。
※コンパクト型蛍光ランプの廃止日は、2026年12月31日。
尚、水銀灯の製造・輸出入が禁止となった際と同様に、蛍光灯の2027年問題は購入できなくなるわけではありません。
とはいったものの、徐々に安定供給が困難となることは明白ですので、計画的な後継機種への置き換えがお勧めです。
さらに詳しい情報をお求めの際は、同じく環境省から案内されている以下の資料、『一般照明用の蛍光ランプの製造・輸出入は2027年までに廃止されます』を参照ください。
水銀灯の見分け方
「自社で使用している照明は水銀灯だったっけ、、、?」と迷われる方もおられると思いますので、チェック項目を紹介いたします。
明かりの色
お使いの照明器具をスマートフォンなどのカメラで撮影してみてください。
水銀灯は、緑色の明かりであることが多いです。
しかし、水銀灯の中でも演色性を改善した照明は白っぽく見えるものもあるため品番を確認するなど注意が必要です。
尚、光源に点が集合している照明であれば、LEDの可能性が高いです。
※直視すると、残像が残ったりちらつきを覚えたりするため、ご注意ください。
水銀使用マーク
水銀使用している照明には上記写真のような水銀使用マークを表示してます。ランプ本体または、パッケージ等に表示されています。2016年末頃から一部の品種で表示を開始しています。
※Hgは水銀を表す元素記号です。
型番
高圧水銀ランプはH、HF、HG、HGF、HRFから始まる型番です。ランプ本体や、パッケージなどに記載されています。
海外製品では品番の表記が異なることがありますので、使用されている照明が不明の場合はメーカーや販売元にお問い合わせください。
水銀灯が含まれるHIDランプについて
水銀灯は正式には「高輝度放電灯」と呼び、水銀蒸気中の放電による発光を利用し安定器を用いたランプのことを指します。この高輝度放電灯のことをHIDランプ(High Intensity Discharged Lamp)と呼びます。HIDランプには、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、バラストレス水銀ランプが含まれます。
メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、バラストレスランプは水銀が含まれているランプですが、水俣条約の規制の対象にはなっておりません。
しかし、省エネ関連からLEDに照明はシフトしておりHIDランプの生産終了を発表しているメーカーもあるため、在庫の減少や、価格の上昇などによって安定供給ができなくなる可能性があります。そのため、こちらの照明に関しても早めの置き換えが推奨されています。
水銀灯の処分方法
それでは本題に移ります。
水銀灯の処分方法は、事業所からの排出と家庭からの排出で異なります。
家庭から排出する場合は、各自治体指定の方法に従って処分となりますが、今回は事業所から排出される場合の処分方法について紹介します。
手順
事業所から排出される水銀灯は、産業廃棄物のうち水銀使用製品産業廃棄物に該当するため、廃棄物処理法に則り適正に処分を行います。
産業廃棄物は、排出事業者が処理する義務があるため、都道府県知事から水銀灯使用製品取り扱いの許可を受けた産業廃棄物処理業者へ処理を委託します。主な手順は以下の通りです。
- 適切な一時保管場所に保管
- 保管場所には、「産業廃棄物保管場所」と記載した、縦横60㎝以上の掲示板または看板が必要であり、種類欄には「水銀使用製品産業廃棄物」と記載する必要があります。
- 水銀使用製品産業廃棄物が、その他の物と混合しないように仕切りを設けるなどの必要な措置を行います。
- 故意に割ってはいけません。
※もし水銀灯が割れた場合は、水銀が飛散する場合があるため、数時間換気をし、破片や粉に触れないよう注意しながら硬い紙などを使って掬い取り、ポリ袋などに密閉してください。触れた場合は、必ず洗ってください。
割れた水銀灯も水銀使用製品産業廃棄物として扱われます。
水銀が飛散しないようにするための処置を行い、破損した水銀灯も回収可能な業者へ依頼します。処理を委託する場合、割れているかどうかによって処理方法が異なる場合があるため、処理業者に処理方法を確認し、必要に応じて状態ごとに保管します。 - 適切な処理業者の選定
下記の点を確認し、適切な処理業者を選定します。
- 処理業者の廃棄物処理許可の範囲
- どこの自治体から、どの種類の産業廃棄物について許可を貰っているのか
- 水銀使用製品産業廃棄物の収集、運搬の許可を受けているか
- 契約の締結
- 契約書にも水銀使用製品産業廃棄物を含めた範囲の許可がある旨が記載されていなければならないため、注意して確認します。
- 産業廃棄物管理票(マニフェスト)の作成、5年保管
- 廃棄物の種類毎、運搬車毎、運搬先毎に作成します。
- 電子マニフェストの場合は、情報処理センターでの保管が義務付けられています。
有害物質を含むものは排出者の責任が非常に大きく、罰則が厳しいため、規定を守ってリスクを低減する必要があります。
費用の目安
地域や廃棄業者、廃棄する量、水銀灯の種類、安定器も処分するのか等によりますが、水銀灯の廃棄には、下記の費用が発生すると見込まれます。最新の正確な価格は、産業廃棄物処理業者へご確認ください。
- 廃棄処分費用:1本あたり数百円~1,000円程度。少量廃棄の場合は追加料金が発生する場合があります。
- 運搬費用:小規模であれば数千円、大量の場合は、それ以上となる場合があります。アクセスが難しい場所からの撤去・運搬には、追加料金が発生する場合があります。
- マニフェスト(産業廃棄物管理票)の発行費用:廃棄物が適正に処理されたことを示すために、排出事業者が関連業者へ交付する書類で、産業廃棄物の排出事業者は、廃棄物処理法によってマニフェストの発行を義務付けられています。
- 廃棄証明書の発行費用:廃棄物処理費用に含まれていることが多いです。廃棄物が適正に処理されたことを示すために、処理業者が排出事業者へ発行する書類で、一部の業者では数百円~数千円の手数料を請求することがあります。
- その他の費用:大型の水銀灯や、照明設備を解体して破棄する場合は、解体費用が発生することがあります。一部の地域や廃棄業者では、環境保護活動の一環として、廃棄物のリサイクルや環境への影響を最小限に抑えるための費用として、環境保護費用がかかる場合があります。
安定器も処分する場合は、下記どちらかの安定器処分費用も発生します。
- PCBを含む安定器処分費用:環境省の規制に従う必要があり、PCB廃棄物の処理を専門に行っている企業の一つであるJESCOの処理費用は一律30,800円/kgです。(2024/8/20確認時点)
詳しくは、下記JESCOのホームページより料金表をご確認ください。
- PCBを含まない安定器処分費用:産業廃棄物処理業者へ委託します。1台あたり数百~1000円程度の追加費用が掛かることがあります。PCBを含まない安定器かどうかは、メーカーのホームページをご確認ください。
交換・更新先の照明の選び方
ここからは水銀灯の置換照明としてオススメの器具を紹介します。
LEDが日常生活に多く導入されてからしばらく経過しますが、「水銀灯の交換先は、LEDが最適!」とは限りません。現状安定して供給されている照明について紹介しますので、「自社の環境には、どの照明が最適か?」をご検討される参考となれば幸いです。
LED
やはり水銀灯から更新先の候補として筆頭に挙がる照明は、LEDです。
単に知名度があるだけでなく、以下のメリット・デメリットを有します。
LEDのメリット
- 省エネ
- 水銀フリー(レス)
LEDのデメリット
- 光の直進性が強く、光が拡がりにくい
- 眩しさやちらつきによって目が疲れやすい
LEDは工業用だけでなく家庭用の照明としても使用されており、とても身近な照明です。
水銀灯や蛍光灯などと比べ寿命が長いので、交換頻度が少なく済みお得なだけでなく、交換に手間のかかる高所の照明としても最適です。また、紫外線や赤外線が少ない特徴を持ち虫が寄り付きにくく、段ボールなどの梱包資材の劣化が少ないなどのメリットもあります。
このような特徴から、LED照明は以下のお客様におすすめしております。
- とにかく省エネにこだわり、電気代の削減をしたい!
- 会社で「水銀フリー(レス)」を指針に掲げている!
無電極ランプ
LEDと比較すると、あまり耳馴染みのない照明器具かと思います。
メリット・デメリットとともに、LEDと異なる点や最大の特徴である「光の質」についても紹介させていただきます。
無電極ランプのメリット
- 光が広がり、影ができづらい
- 眩しくなく、ブルーライトが少ないため目に優しい
無電極ランプのデメリット
- 小型化、軽量化が難しい
- わずかに水銀を使用している
無電極ランプは光が広がるという特徴を持つ照明です。
そのため、空間をムラなく照らすことができ、反射が少ないことや影ができづらいという特性を持ちます。
目が疲れないことから、長時間作業を行い均一な明るさを求められる工場や、倉庫などでその良さを発揮してくれます。
また、反射や白飛びが起きづらいため、目視でチェックを行う製造ラインや検査場の照明にも適しています。
このような特徴から、無電極ランプは以下のようなお客様におすすめしております。
- 光の広がる照明で、職場環境改善や衝突事故を防止したい!
- 光の質にこだわり、眩しくなく残像が残らない照明で目の負担を減らしたい!
コタニからの提案
LEDが近年注目を浴びている理由は、政府が掲げる「100%LED化」です。メリットのみで普及を進めているのではなく、このよう背景からも水銀灯の置き換えは「LED」というイメージが強くなっていると思いますが、LEDだけで全ての使用環境や用途をまかなうのは難しい現状にあります。
また、前述にてご紹介した通りLEDも無電極ランプも得意・不得意分野がございます。
それぞれの特性をよく理解したうえで選択することで、最適な環境づくりに繋がります。
弊社では様々な使用環境や用途に対応するためにLEDと無電極ランプの両方を取り扱っております。詳しい製品については以下ページをご覧ください。
- LEDをお探しの方はこちら
広角型LED
- 無電極ランプをお探しの方はこちら
設置場所を選ばないオールインワン無電極ランプ
最後に
水銀による健康被害や地球環境保護の背景から、水銀への規制は年々厳しくなってきています。規制が変わると処分方法が変わる可能性があるため、各自治体の処分方法をご確認の上処分を行ってください。
水銀灯からの置き換えの際は、使用環境や用途に応じて適切な照明を選ぶことが必要です。
前述にて紹介しておりますが、弊社では無電極ランプやLEDなど各環境や用途に応じた提案ができるような製品をそろえております。
照明の更新を検討している方や照明選びに困っている方はぜひ弊社にご相談ください。
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