日本でまだまだ一層の浸透が求められるアニマルウェルフェアですが、酪農業界における牛舎もその例外ではありません。
農林水産省が発行しているパンフレット『~アニマルウェルフェアの実践に向けて~(乳用牛)』で「照明」の項目があり、以下の通り説明されています。
牛に恐怖やストレスを与えない状況や、牛の健康状態の把握等が適切に行える状況を確保するため、管理者が適切に観察や作業ができ、牛の行動に影響を与えない明るさを保つことが、牛の快適性の確保につながります。
それでは、乳牛の住まいとなる牛舎の環境づくりにおいて、どんな照明を使用すると乳牛がストレスを感じづらく快適性(カウコンフォート)が高いのでしょうか?
このブログでは、牛舎にとっておすすめの照明を紹介していきます。
牛舎に適した照明を選ぶべき理由
例えば人は寝室でリラックスしたい時、青白い色の照明とオレンジ色の照明どちらを選択するでしょうか。
Googleで「寝室 照明」と画像検索をすると以下のような画像が並んでおり、オレンジ色の暖かい色の照明が使われていることが分かります。
このように場所に応じて適した照明があり、その照明に応じてリラックス感や、集中力が増すなどという効果も得ることができます。
実は人間と同じく、牛にとっての生活空間である牛舎でも、最適な照明があります。
そこで各照明の特徴を紹介する前に、そもそも牛舎用照明を選定する必要性について解説したいと思います。
コスト削減
本記事を執筆している2023年4月現在、円安やウクライナ情勢などの諸要因により、飼養の輸入コストが増大しています。
またコロナウイルスの影響で学校給食がなくなり、牛乳の消費量が落ち込み、廃棄処分をせざるを得ない事態も起きていました。
このような状況から、コスト管理は以前よりも重要性を増したと言われています。
照明では、水銀灯やナトリウム灯をLEDやインダクションライトといった省エネ照明に置き換えるだけでも、照明にかかる電気代が約半分までコストダウンできることもあります。
牛のストレス対策
以下の『乳牛とストレス』の記事にも記載していますが、ストレスは乳牛の生活や生産性・生体リズムにも影響すると言われています。
照明を変更する際、明るさやコストなどは検討されるとは思いますが、牛のストレスという視点ではなかなか検討されないかもしれません。
しかし、牛がストレスを感じるリスクを対策すると、牛の長寿命化にもつながるとも言われていますので、決して無視できないリスクです。
交換のしやすさ
牛舎環境は、照明にとって良い環境とは言えません。
設置している照明の上部に埃が溜まってしまうと、器具によっては出火や故障のリスクがあります。
照明が壊れてしまい、交換するとなると牛舎にいる牛を一度別の場所を移す必要がありますので、時間や手間がかかります。
つまり、埃に強い防塵性、埃がたまっても水で洗い流せるような防水性、またできるだけ光源寿命が長い照明が牛舎には適しています。
各照明を牛舎に設置した際を想定してみる
水銀灯の場合
5m以上の照明設置高さで、水銀灯は非常に広く流通していました。
弊社も現地調査へ伺った際、現状も水銀灯を使用されている牛舎のお客様に度々遭遇します。
しかし、2013年に熊本県で締結された水俣条約により、2021年以降は全世界的に水銀灯の製造・輸出入を禁止されています。
現状牛舎や電材商社に交換用の電球が在庫されていたとしても、計画的な照明の更新が必要です。
また消費電力も高く、入電時即時点灯しないという点からも今後の使用にはあまり向いていません。
なお、水銀灯の分類であるメタルハライドランプ(メタハラ)、セラミックメタルハライドランプ(セラメタ)、ナトリウムランプなどは水俣条約の規制対象ではありません。
蛍光灯の場合
蛍光灯は灯具の高さが10㎝未満と薄いため、天井付近に送風機などがよく設置されている牛舎においても邪魔にならず設置することが可能です。
但し推奨高さが3m程度となり、低い天井に限定されます。
また蛍光灯の寿命は6,000~12,000時間と短いため、交換の手間がかかってしまう点から設置に向いている牛舎は限られてきます。
LEDの場合
水銀灯と比べ、低消費電力で明るさを確保できるため、多くの場面でLED照明は使用されています。
蛍光灯タイプのものから水銀灯に置き換わるものまで、幅広いラインナップがあります。
またLEDの寿命は60,000時間と長く、なかなか交換できない牛舎においても一度設置すれば長く使用できるという点もメリットとなります。
ただし、LEDはブルーライトの波長が突出しています。
ブルーライトが乳牛へ及ぼす悪影響としてメラトニン(睡眠ホルモン)分泌抑制による概日リズムの崩れ、コルチゾール(ストレスホルモン)分泌の増加があります。
コルチゾールが高い場合のデメリットは、牛が妊娠しづらくなります。
LEDはブルーライトの波長が高い" width="900" height="506" class="alignnone size-large wp-image-13202" />
尚、直感型・蛍光灯型のLEDは前項の通り、推奨高さが~3m未満ですので、ご注意ください。
インダクションライトの場合
水銀灯と比べ、低消費電力で水銀灯と同照度を実現できます。
LEDよりもブルーライトが少なく牛へのストレスがかかりづらいことから、牛舎での照明として最もおすすめです。
ヨーロッパやアメリカ・カナダなどの北米では、既に広く導入されている照明です。
小型化が難しく、一般家庭で使用できる照明ではないので、日本での知名度はまだまだ低いです。
インダクションライトでカウコンフォートな牛舎を
前項の通り、牛舎向け照明として、インダクションライトをおすすめしています。
コタニ株式会社のインダクションライトは以下の特徴を評価いただき、牛舎のお客様へ450台以上導入した実績があります。
また大変有難いことに、お引き合いをいただく機会もかなり増えており、現在もお客様とコンタクトを継続しています。
広島大学 杉野教授の技術的バックアップ
広島大学と弊社で共同研究しているご縁から、お客様の牛舎環境に応じたベストな設置条件を杉野教授の知見を活かして提案可能です。
杉野教授
生産性は,乳牛の健全性,牛舎の快楽性などを担保して始めて向上するものと思います。
ストレス要因を制限のある中で可能な限り軽減できれば,その分,乳牛は応えてくれますし、結果的に収益にも戻ってくると思います。
防塵・防水 IP規格
スマートフォンなどの電化製品でも設定されている防塵・防水性能は、保護等級として「IP規格」が定められています。
弊社が取り扱う牛舎用のインダクションライトのIP規格は、IP66を取得しています。
詳細は以下の表を参照ください。JIS C 0920-2003より引用。
- 防塵
- 防水
乾草やおがくずなどの粉塵が舞う牛舎内ですが、対策をしていないと照明器具内部への侵入が想定され、寿命の短命化を招きかねません。
弊社のALL TERASUシリーズは、防塵規格で最高等級のIP6□を取得していますので、粉塵のリスクを回避することができます。
等級 | 人体・固形物体に対する保護 | |
---|---|---|
□ | 保護の程度 | テスト方法 |
IP0□ | 保護なし | テストなし |
IP1□ | 手の接近からの保護 | 直径50mm以上の固形物体(手など)が内部に侵入しない |
IP2□ | 指の接近からの保護 | 直径12mm以上の固形物体(指pなど)が内部に侵入しない |
IP3□ | 工具の先端からの保護 | 直径2.5mm以上の工具先端や固形物体が内部に侵入しない |
IP4□ | ワイヤーなどからの保護 | 直径1.0mm以上のワイヤーや固形物体が内部に侵入しない |
IP5□ | 粉塵からの保護 | 機器の正常な作動に支障をきたしたり、安全を損なう程の量の粉塵が内部に侵入しない |
IP6□ | 完全な防塵構造 | 粉塵の侵入が完全に防護されている |
経年による塵の付着・蓄積が原因で照度が低下してしまった場合でも、放水するだけで、元々の照度に少しでも近付けることが可能です。
弊社のALL TERASUシリーズは半屋外の牛舎はもちろんのこと、外灯としても導入しております。IP□6を有しますので、水洗いのため放水しても問題ございません。
等級 | 水の侵入に対する保護 | |
---|---|---|
□ | 保護の程度 | テスト方法 |
IP□0 | 保護の程度 | テストなし |
IP□1 | 垂直に落ちてくる水滴によって有害な影響を受けない | 200mmの高さより3~5mmの水滴、10分 |
IP□2 | 垂直より左右15°以内からの降雨によって有害な影響を受けない | 200mmの高さより15°の範囲3~5mmの水滴、10分 |
IP□3 | 垂直よろ左右60°以内からの降雨によって有害な影響を受けない | 200mmの高さより60°の範囲10ℓ/分の放水、10分 |
IP□4 | いかなる方向からの水の飛沫によっても有害な影響を受けない | 300~500mmの高さより全方向に10ℓ/分の放水、10分 |
IP□5 | いかなる方向からの水の直接噴流によっても有害な影響を受けない | 3mの距離から全方向に12.5ℓ/分・30kpaの噴流水、3分間 |
IP□6 | いかなる方向からの水の強い直接噴流によっても有害な影響を受けない | 3mの距離から全方向に100ℓ/分・100kpaの噴流水、3分間 |
IP□7 | 規程の圧力、時間で水中に没しても水が浸入しない | 水面下・15cm~1m、30分間 |
IP□8 | 水面下での使用が可能 | メーカーと機器の使用者間の取り決めによる |
高W数のラインナップ
コタニ株式会社のインダクションライトは100W~200Wまでの幅広いラインナップがあります。
例えば、一部のエリアのみ特に明るくするなど、お客様の牛舎内環境に応じた設置方法をご提案することも可能です。
最後に
「酪農危機」という言葉をニュースで目にすることが増えてきました。スーパーにいけば当たり前に並んでいる牛乳や乳製品ですが、酪農家の方々が工夫を凝らしながら生産しているということをニュースで見て感じます。
私共は照明を通じて、酪農家の方々と接する機会や牛舎に足を運ぶ機会が年々増えてきました。
照明というあまり牛には直接関係が薄そうなこのブログが接点となり、この内容が多くの酪農家の皆様に知れ渡ればと思い記事を作成しました。
実績などさらに詳しく知りたいという方はぜひお問合せください。
【執筆者:Y.N.(一般社団法人照明学会 照明コンサルタント)】
お問い合わせフォーム