水銀灯が制限される水俣条約
水俣条約が採択され、水銀灯の製造や輸出入が2021年以降禁止されます。その結果、多くの企業が、水銀灯から照明の種類を変更(置き換える)しはじめています。
そこで、この記事では、どうせならより明るく、より省エネができる照明へ交換したいという要望をお持ちの各企業の方に、その検討の仕方から、各種照明の特徴等、参考にしていただきたいことをまとめました。
水銀灯から、LEDなど水銀灯以外の照明に置き換える検討項目
安く導入できる照明器具であれば、それでOKとはいきません。照明器具を選ぶとき、選び方にはコツがあります。
この記事では、照明のプロが全15項目について解説します。その15項目とは、次のとおりです。
1.明るさ
2.省エネ度合い
3.建物内のごちゃつき度合い(影)
4.演色性(色の再現度合い)
5.作業内容
6.目視検査の有無
7.瞬時点灯の必要性
8.模様替えの有無
9.照明設置の高さ
10.照明の設置位置
11.使用環境
12.導入費用(イニシャルコスト)
13.ランニングコスト
14.工事の手間と使用期間
15.防爆の有無
どんな方でも、15項目すべてが重要というわけではありません。ある工場にとっては、1、3、5、15項目だけが大事だったり、ある事務所には、7のみだったりします。自分の環境では、どの項目を検討していかなければいけないか、参考にしてください。
明るさ
水銀灯から器具を変更して暗くなると印象は良くありません。明るさは事前に照度計や照度設計によって確認ができます。明るすぎて困っているという場合以外は現状より明るくなる照明を選ぶことをオススメします。どのくらいの明るさにしたらいいか分からないという場合はJIS照度基準を参考にしてください。
省エネ度合い
近年は脱炭素やSDGsなどの関係もあり、省エネは重要な選定ポイントとなりました。水銀灯から他の照明に変更すると明るさを落とさず省エネになることがほとんどです。選定する照明によって省エネできるパーセンテージが異なります。また1台当たりではかなり省エネとなっても全体の台数が増えてしまうと省エネにならないケースもありますので、1台当たりの電力値と全体の電力値を確認するようにしましょう。
建物内のごちゃつき度合い(影)
影ができにくい照明を選ぶのも大事なポイントです。明るさや省エネ、導入コストなどは重要視されますが、あまり影を気にされる方は少ないかもしれません。というのも水銀灯使用時はあまり影が気にならないことが多いからです。照明を変更してみて、今まで気にならなかった影が濃く出ているように感じるや、影の影響で死角ができたという声も聞いたことがあります。特にラックが並んでいるような倉庫、大型の製造機械が並んでいるような工場、配管が張り巡らされている工場などごちゃついているところは照明による影の影響が大きく出る可能性がありますのでご注意ください。
あとで説明しますが、「無電極照明」というのがあって、それはLEDよりも影ができなくておすすめです。
演色性(色の再現度合い)
「洋服屋さんで選んだ服が、太陽の下で着たら、なんか色が違った」という経験はないでしょうか。これを照明の演色性と言います。演色性はRaという単位で表され、太陽光下の演色性がRa=100となり、これが基準値です。このRaの数値が100に近い数値であれば自然光下に近い照明となり色が違って見えるということが少ないです。塗装をされるような現場では特に演色性は重要なポイントになります。
作業内容
照明光下で行われる作業も配慮が必要です。細かな作業を行うような製造現場と商品を置いてある倉庫では必要な照度(明るさ)も演色性も異なります。水銀灯変更時はどういう作業をする場所なのかも業者にお伝えの上、照明を変更してください。
目視検査の有無
目が疲れる。これは大事な検討項目です。目視検査のような人の目を駆使する現場では必ず検討項目に入れてください。誰も意識していないことが多く、LEDを使い始めて、「水銀灯と比べて、目が疲れた」と再雇用の方々が仕事をやめてしまうこともあります。
瞬時点灯の必要性
水銀灯を使用していて一番ストレスに感じるのは、すぐに点灯しないという点ではないでしょうか。使用中、誤って消してしまいすぐに点灯を試みるも20~30分点灯せず作業を中断したという経験をされた方もおられると思います。LEDや無電極ランプは瞬時点灯、瞬時再点灯しますので、お昼休みやちょっとした休憩時も消灯でき、省エネにも貢献します。
模様替えの有無
現場の模様替えが行われる場合はご注意ください。特に大型の機械やラックがあるような現場では、照明変更時は明るかったのに、模様替えを行って照明の下に機械が来てしまって暗くなり投光器を追加で設置したということも少なくありません。模様替えを見越した照明配置も検討できますし、模様替え後も明るいように照明の光が広範囲を照らせる照明を選択することで、模様替え後、暗くなるということを防ぐこともできます。
照明設置の高さ
現状使用している照明は地上から何mの位置に設置されていますでしょうか。一般的に設置高さが高ければ変更時に検討するLEDの価格は高く、器具は重たくなります。照明設置位置から明るさが必要な場所が20m以上離れている場合は、数社から見積もりを入手する他、メタハラやセラメタなどの照明も検討材料に入れることがポイントです。
照明の設置位置
水銀灯の変更に伴い、照明の配置や設置台数を変更するケースも少なくありません。今20台設置しているけど照明変更すると16台で希望する照度が出そうということもよくあることです。また設備に隠れ使用していない(役目を果たせていない)照明もよくあります。不自然に、あるポイントだけ密接して水銀灯が設置されているということもあります。
照明を変更するとその光の広がりは当然異なりますので、現状と同じ配置でいいのか、変更してもいいのかもお考え下さい。
使用環境
LEDは温度や粉塵などの影響を受けます。炉があり50℃になる工場で今まで水銀灯を問題なく使用できていた、埃が舞う牛舎で水銀灯を問題なく使用していたと言って、気にせずLEDに変更すると思ったよりすぐ切れたということが起きます。今どのような環境(温度、屋内外、粉塵の有無など)で使用しているかで、使用できる照明の機種が異なります。LEDには保証温度やIP性能について記載がありますので、必ずチェックが必要です。
導入費用(イニシャルコスト)
水銀灯から置き換えるLEDは1台当たり数万円します。価格はメーカー、購入時期、スペック、保証などでかなり変動します。同じ型番であっても購入ルートによっては価格に差異が生まれます。一般的なものであればパナソニックや東芝、三菱電機などLEDの大手メーカーは同等商品を出していますので比べてみるのも、最適な選択をする上で必要です。ただし導入費用が安いからという理由だけで器具を選定すると、すぐ壊れたり、不点灯時の保証がないということもありますので価格だけで選択するのは要注意です。
また器具代だけでなく設置工事費も必要になります。高所作業車が入るか、足場を組まないといけないかなど現場によって価格は異なります。工場内に出入りされている工事屋さんなどがあれば、配線や分電盤を熟知していますので話が早く、価格も安いことが多いです。
ランニングコスト
照明はランニングコストがかかります。照明の電気代だけでなく不点灯時の交換費用などもランニングコストに含まれます。水銀灯から置き換えると、このランニングコストは大幅に削減できることが多いです。1台当たりの消費電力は半分以下となり、照明寿命も倍以上伸びます。ただし水銀灯は、不点灯となったとき球のみの交換で済んだのが、LEDや無電極ランプにすると寿命は長くなりますが、器具一体交換になるのでそこは覚えておく必要があります。
工事の手間と使用期間
長い間使用するには照明のランプ寿命ができるだけ長いものを使用しましょう。特に工事の手間がかかる工場、具体的には機械が工場内に広がっていて高所作業車が入らず足場を組まないと取替工事ができないようなところは、交換費用がかさみますのでランプ寿命が照明選びの重要なポイントになります。社団法人日本電球工業会出版の「HIDランプガイドブック」によれば水銀灯の定格寿命は6000~12000時間と記載があります。対して一般社団法人日本照明工業会のHPによればLEDの定格寿命は4万時間と記載がありますので、照明器具それぞれでて定格寿命が異なることが分かっていただけると思います。
防爆の有無
防爆仕様の水銀灯からの置換は器具も工事も非常に高額になります。また防爆仕様となると選択肢が一気に少なくなります。だからといって防爆仕様が必要なところに通常仕様のものを設置するわけにもいきません。防爆にも安全増防爆、耐圧防爆など種類があります。そのエリアがゾーン1なのか2なのか、本当に防爆仕様が必要なのかなどは消防に確認の上、ご選定ください。
水銀灯について
水銀灯はHIDランプの一種です。発光管は高温高圧に耐える透明石英ガラスが使われておりアルゴンが封入されています。演色性がRa40ほどと悪く自然光下と見え方が異なり光源寿命は12000時間ほどです。器具の大きさから天井高5m以上の建屋の空間照明として使われていることが多い他、街路灯や体育館の天井灯としてもよく使用されています。HFから始まる型番が水銀灯で水俣条約の規制対象品となっています。
LED照明について
2006年に100lm /Wを超えて以来、LED照明として本格的に採用がはじまりました。省エネの観点や水俣条約の発令に伴い、既存の照明光源をLEDが置き換える状況が続いています。最大の利点である省エネルギー性はもちろん、我々の生活をより安全で快適にする高機能な光源としても注目されており、その重要性はさらに高まっていくものと考えられています。【参照元:一般社団法人照明学会編集 照明ハンドブック(第3版)】
無電極ランプについて
無電極ランプも水銀灯と同様のHID照明の一種になります。発光管内に電極がなく、電磁誘導と放電による発光原理を利用して光ります。このため、ランプ切れの原因となる電極の劣化・ 折損が生じません。小型化ができず家庭用や事務所用としては販売されていないため知名度は低いですが、水銀灯の置換照明や柔らかい拡散光が好まれる領域で使われている照明です。
LEDと無電極ランプをどうやって選ぶか?
上記の15項目のうち、重要視するポイントをしぼっていただきたいです。重要視するポイントに応じてLEDが最適な選択の場合もあれば、無電極ランプが最適な選択の場合もあります。もしかするとLEDも無電極ランプも適さずまた別の照明が良いという場合もあるかもしれません。
ポイントの中で「3.建物内のごちゃつき度合い(影)」「4.演色性(色の再現度合い)」「6.目視検査の有無」「14. 工事の手間がかかるからできるだけ長い期間使いたい」が重要な方は、ぜひ、無電極の検討もしてみてください。デモ機とかを見ると、考え方も変わるはずです。
無電極ランプとLED、メタルハライドランプのメリット・デメリット
ここでは水銀灯からの置き換えで検討されることの多い、3つの照明器具について水銀灯を基準に比較してみます。
水銀灯 | メタルハライドランプ | LED | 無電極ランプ | |
---|---|---|---|---|
サイズ | 光源が大きい | 光源が大きい | 光源がコンパクト | 光源が大きい |
省エネ | ✕ 400Wとする | △ 250W | 〇 120W | 〇 150W |
光源寿命 | ✕ 12,000時間 | ✕ 12,000時間 | 〇 4~6万時間 | 〇 6~10万時間 |
見え方(演色性) | ✕ 自然光とかけ離れている | 〇 自然光に近い | 〇 自然光に近いものもある | 〇 自然光に近い |
まぶしさ(グレア) | △ | △ | ✕ カバー付は△ | 〇 眩しさなし |
誘虫指数 | ✕ 虫がよく集まる | △ 比較的少ない | △ 比較的少ない | △ 比較的少ない |
瞬時始動 | ✕ | ✕ | 〇 | 〇 |
水銀灯400Wを基準に考えると1台当たりの省エネ率は一番LEDがよいです。定格寿命は無電極ランプが6万~10万時間とLEDよりもさらに長寿命の光源です。
無電極ランプとは?
水銀灯の置換として使用されている無電極ランプですが、知名度の低さからこのコラムで初めて知ったという方も少なくないと思います。ここからは無電極ランプについて紹介いたします。
無電極ランプの仕組み
無電極ランプは、発光管内に電極がなく、電磁誘導と放電による発光原理を利用して光ります。このため、ランプ切れの原因となる電極の劣化・ 折損が生じません。
※参考資料 → 「無電極インダクションランプの発光原理」
無電極ランプの特徴
・定格寿命が6万~10万時間と非常に長く、ランプ交換コストを大幅に削減できます。(水銀灯の5倍、LEDの1.5倍)
・消費電力は、水銀灯から約50~65%削減できます。
・チラツキ、グレアがなく、自然な光で、目も疲れにくい。
・全指向性のため、空間全体が明るくなり、高天井用照明として最適です。
・瞬時に点灯するため、必要なときだけ点灯でき、節電にも役立ちます。
水銀灯から無電極ランプに交換したときの効果
水銀灯から交換することで、省エネになるだけでなく、その自然な明るさで広がる光により、空間全体が明るくなり、作業場所に制限がなくなる上に細かい部分でもよく見えるようになるため、作業効率がアップします。また、事故の危険性が低減されます。
無電極ランプが使用できる場所
もともと水銀灯が使用されていたところでは問題なく使用できますが、無電極ランプは天井高が低すぎる、もしくは高すぎる場所では使用できません。具体的に無電極ランプが使用できる場所は、中天井と呼ばれる高さ3m~6mと、高天井と呼ばれる高さおよそ6m~10mの場所です。また、無電極ランプはIP65または66が標準装備となっているメーカーもございますので、粉塵が舞うような環境や、屋外で雨があたる環境でも使用できます。さらに、マイナス40度の低温環境から50度の高温環境でも使用できます。
無電極ランプの導入事例
以下のURLをぜひご覧ください。
水銀灯からの変更事例は以下URLでも確認いただけます。
無電極ランプ海外企業での活用状況
無電極ランプのデモ機ご案内
無電極ランプについての良さは実物を確認いただくのが一番分かります。弊社では無料でデモ機の貸し出しを行っておりますのでぜひお試しください。使用状況を教えていただければこちらで器具の選定はさせていただきます。
【執筆者:S.S.(一般社団法人照明学会 照明士)】
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