本ページは、情報提供を目的としております。
弊社では技術的フォローが困難な製品のため、予めご了承をお願いいたします。
今回は、ラビリンスシールについて紹介します。
市販品でこのシールはあまりカタログ化しているものは見かけません。
日本産業規格のJIS B 0116「パッキン及びガスケット用語」では次の2点が相当します。
- 用語:非接触形シール
定義:シール面を構成する二つの面が小さな隙間を介して対向するシール(non-contact seal)- 用語:ラビリンスシール
定義:軸封部に狭い通路を設けた非接触シール。ラビリンスパッキンともいう。(labyrinth seal)
ラビリンスシールの原理
高圧側から低圧側へ向かう粘性流れが、
絞り(すきま)と広がり部(膨張室)を順次通過する際に、次々と減圧されます。
図1 ラビリンスシールの基本形式
図2 低圧、無圧用途に用いる簡易型ラビリンスシールの例
出典:日本規格協会『密封装置選定のポイント』
このときの流路の粘性抵抗損失と曲がりの損失の他に、
気体の場合は膨張・収縮による密度変化を伴い、熱力学的損失が加算されます。
すなわち高速で絞り(すきま)を通過して膨張室に入る時は断熱膨張が行われ、
膨張室内では等温変化で速度がほぼ零となって次の絞りに到達します。
以後各段でこれを繰り返し出口に至ります。このときの流量が漏れ量になります。
しかし、漏れは必ず存在することになります。
ラビリンスシールの特徴
文献も多くなく、ここでは宗 孝著『プロの教えるシールのごくい』からのものを記載します。
最近ではラビリンスシールの各パーツを設計、標準化して市販している場合もありますが、
最終的には機械メーカ自身が設計、製造する必要のあるシールです。
図3のように、流路を狭める絞り先(フィン)とその直後の膨張室からなり、
何段もすきまを重ねることによって、次第に圧力を下げて漏れを減少させる構造のものです。
図3 ラビリンスシールの種類
出展:宗 孝著『プロの教えるシールのごくい』
(a)~(g)については、下記にて解説しております。
尚、圧縮性のない流体には適用できないはずですが、
揚程や回転数が大きく、軸径の大きい大形ポンプ、水車などの流体の漏れを止めるには有効です。
その他用途としては、蒸気タービンなどのターボ機械でも、
相手側(回転)の漏れ量を低減するため、使用されております。
これは流体の流動抵抗を大きくすることで、漏れを少なくしています。
ラビリンスの漏れ量を減らすためには?
- フィンの先端をできるだけ鋭利にし、すき間を極力小さくする。表1にラビリンスのすきまの標準を示します。
表1 ラビリンスのすきま(ガス体の場合)
径(㎜) 直径すきま (1/100㎜)
径(㎜) 直径すきま (1/100㎜)
50~80 10.5~19.5 360~500 27~43.5 80~120 13~23 500~650 30~50 120~180 16~27.6 650~800 33~56 180~260 19~32.2 800以上 35~60 260~360 23~38 出展:宗 孝著『プロの教えるシールのごくい』
- フィンの数をできるだけ多くし、流動抵抗の大きい形状にする。
設計上の注意事項
ラビリンスシールの欠点や注意すべき点としては、以下が挙げられます。
- 漏れは発生する
- シールの構造が複雑である。
- 気体のみのシールに限定される。
- 構造上、精密さが要求される。
各種、詳しく見ていきましょう。
漏れると危険な流体の場合
ラビリンスシールは漏れを完全に止めることができないので、
危険性のある流体は最終段で何らかの処置が必要になります。
フィン材料に関する注意
回転中フィン部が接触し易いので、仮に接触しても焼付くことの無いような軟質金属製のフィンにする。また腐食されない材料にする。図3のフィンの材料は次のようになっています。
図3 ラビリンスシールの種類
出展:宗 孝著『プロの教えるシールのごくい』
- (a)銅板、リン青銅板、黄銅板、ニッケル板などを図のように合金に固着させたもの
- (b),(c)はリン青銅板、黄銅板などを合金にはめ込み、合金をコーキングして固着させたもの
- (d),(e)は合金にホワイトメタルを鋳込み、適当な形のフィンを削り出したもの
- (f).(g)は黄銅材、青銅鋳物、鉛青銅鋳物などを適当な形のフィンを削り出したもの 空気機械に使用される標準材料を表2に示します。
材質 | 名称 | 機種別用途 | 使用限界温度℃ |
---|---|---|---|
Bs | 黄銅帯金 | 一般空気用,特殊ガスを除くガス送風機 | -100~200 |
PBP | りん青銅帯金 | 蒸気送風機,焼結送風機,高炉送風機 | -100~250 |
硬質合成ゴム | 耐食用,低圧送風機用 | 60以下 | |
PTFE | テフロン | 耐食用 | -100~60 |
Ni帯金 | ガス送風機 | -200~700 | |
WJ9 | ホワイトメタル | 金属間接触火花を避けたいガスの場合 | 150以下 |
HPb | 硬鉛 | 金属間接触火花を避けたいガスの場合 | 150以下 |
出展:宗 孝著『プロの教えるシールのごくい』
高温の場合の注意
熱によりひずみを起こさず、軸及び固定部の膨張差による相互の位置が変わっても、
無理な接触を起こさないような構造にすること。
すき間に関する注意
表1に示したラビリンスのすき間は可能な限り小さい方がよいが、
軸受のクリアンスによる軸心の移動、加工誤差、運動中の膨張などにより、
回転体とラビリンスが接触することのないように決めることが必要です。