1.まえがき
シールの設計に、最近有限要素法を利用することが多くなってきています。
一種のCADなどと比較しても相当難しい分野であることは間違いありません。良いソフトの誕生が多くなり、シール設計担当者でも勉強して利用できるようになっているのが、現状でしょう。
シールメーカのカタログでもそれらを使用して解析をしているとか、設計に利用しているとのことなどの記述が多く見られるようになりました。
筆者も今更、出来るようになりたいとの意欲はありますが、今の年齢では,ソフトの購入や勉強することは無理と思っています。
2.有限要素法とは
有限要素法(Finite Element Method,略してFEMと呼ばれることが多い)、またはそれを使って解析することからFEA有限要素解析(Finite Element Analysis)とは、FEMという数値解析手法(理論)を用いた技術計算(Engineering Analysis)のことです。
すなわち、有限要素法の理論体系に基づき開発されたソフトウェア(FEMプログラム)を用いて、コンピュータ上で様々な工学問題の数値解析を実施することです。
数値解析の手法にはいくつかありますが、FEMはその優れた特長のために、現在様々な工学分野で最も広く利用されており、市販のソフトウェアも数多く出回っています。
歴史的に見ますと、1950年代に最初に航空構造力学の分野で考案され、その後多くの研究者によって改良・育成されてきた数値解析手法です。当初は、航空機や大型船舶などの重要工業製品の設計に適用されるだけでしたが、ハード・ソフトの進歩とともに一般の製品開発にも利用されるようになり、1970年代以降、工学解析手法の中核技術として産業界に急速に普及しました。
しかし、金属などの場合と異なり、ゴム製品などの弾性体に関しては、設定条件の困難性も伴い、相当な時間を要したと聞いています。
実際には複雑な形状・性質を持つ物体を,単純な形状・性質の小部分(要素)に分割し,その1つ1つの要素の特性を,数学的な方程式を用いて近似的に表現した後,この単純な方程式を組み合わせ、すべての方程式が成立する解を求めることによって,全体の挙動を予測しようとするものです。
上図は室蘭工業大学機械システム工学科の境教授の資料を引用しています。
数値計算について
物理からに流体力学、プログラミング、メッシュ作成などの幅広い知識の総合力となります。
流体力学で導出された連続の式やストークスなどの微分方程式を離散化という行列式に分解する方法です。有限要素法には、節点や要素、また形状関数や内挿関数といった考え方も必要です。また解析領域に界面を扱うためにグリーン・ガウスの定理やラプラスの式といった公式も使用します。
プログラミング
プログラミングにはフォートランなどが使用されます。
3.要素の内容(代表的のもの)
- 材料物性値:ヤング率、ポアソン比
- 要素分割に関するデータ(よく言われるメッシュ)
- 解析対象の寸法、形状に関するデータ
- 荷重条件
- 拘束条件
などをデータとしてインプットします。
いずれにしても難しいのは実際です。
しかし、実際には勉強して、実習を繰り返すことにより、より有効な手法となることも事実です。
4.シールにおける利用方法
1)シールデザイン
従来のシールデザインでの手法は、次に示すようなやり方で行ってきました。客先からの仕様を得ますと、従来の手法は次図に書いていますように、過去の経験や実験などから得ているデータ類から大凡の設計を行います。
ただし、決めにくい要素(例えば、リップシールならば張り代や、その部分の形状などが仕様に合致するか否かの場合にはその要素を幾通りかを含めて行います。(その分、金型作成が複数になる場合もあります)
当然、金型以外にもゴム材料を含めて検討する場合もありますので、より時間とコストが掛かります。開発に時間が掛かる要素となっています。
これらを如何に短絡して行うかが設計担当者の腕の見せ所です。
次に現在の新しいシールデザインは次のようにFEAを使用します。
お分かりのように、従来の手法と異なり、最初から金型を作り、機能評価する方法が省略されていますので、トータル的には相当な時間とコスト面でも進化しています。
ただし、どのような製品の開発でも使えるかどうか別のことです。
しかしながら、この手法と開発結果を客先に提示すれば、安心材料にはなります。
2)有限要素法での実例の紹介
現在、多くのシールメーカのカタログや文献などでもこの手法を使った例が多く見られます。その中での例を見て行きます。
Oリングの応力分析(例)
この図では、応力が多く掛かっている箇所は色が赤色の箇所で、一般的には赤系統の順で最後は青色が少ないことになります。見て解りますように、Oリングは中央部でつぶしが与えられている為にこの様な分布になります。
以前はOリングにつぶし代を与えるとその反力で次の波形になることを示していました。(下図の例)
図の反力をゴムの内部で見たものが、前図の解析したものと言えます。
上の図は昔では色々の手段で計測していました。この内容は次回に説明します。
上記でOリングのFEMの例を上げましたが、従来では、その反発力(接触応力とも言います)は調べる手段には光弾性を用いる、試験機(非常に小さい圧力油を導入できるスリット部を設けた特殊な試験機でシールの幅方向~前図では左右となります~を移動させながら圧力をかけて幾らまで加圧するかで判断する方法)、または応力感圧紙を用いる方法(次の図を参照ください)などを用いて実施してきました。
接触表面の色分布サンプル
図では特殊なUパッキンでの接触応力を求める手段として感圧紙を用いて、実際にはその色と他の方法で圧力(既知)を掛けて色を出したものと対比する。
いまでは、その反発力をFEMで実施したものは次に図面です。
図 Oリングの接触応力FEM
Oリングで体積圧縮を受けた例
往々にして、ハウジング断面積とOリングの断面積と比率が悪くてなることがあります。設計を間違った、流体による膨潤、温度による影響などを起こすとOリングが割れる現象が発生することがあります。このような近い例のFEMです。
そのような応力が発生していることが見える良い例です。
図 体積比率が悪い場合のOリングのFEM解析例
これらの図は各社のカタログや文献から引用しています。
Oリングのはみ出し現象
ご存知のように、Oリングは相手面のすきまとOリングのゴム硬さと使用する流体の圧力によりはみ出しが発生します。これをFEMで解析した例が下図の通りです。
これらの例ではゴムの硬さ(強度)と圧力とすきまを変化させれば、はみ出しの出ない条件ができることにもなります。(図は三菱電線工業株式会社発行の技術資料のものをいずれも使用しています)
Xリングの例
左側が圧力なし、右図が0.7MPaの場合
空気圧用単一パッキンの例
右図が上部より圧力が0.7MPa掛かった例ですが、お分かりのように、パッキンの変形状態や圧力の部分も変化しています。
Uパッキンの例
これらの例から、使用状態で圧力が掛かった場合に姿勢の安定性は重要なシールのポイントでもあります。
図の中で、色が明るい場所ほど、応力が大きいことを示しています。
3)有限要素法での問題点
2)では如何に有効に利用価値があるかが、お分かりになったかと思います。
しかし、何か形状とか、数字が出たからすべて問題がないと思うと間違いも起こりがちです。
やはり、実証を行って、確認することも重要です。
前に感圧紙でUパッキンの圧力分布を調べると説明した文献では、最終的には、FEMで確認をしています。
その内容を次に示します。
上図はFEMでの解析、下図は前に示した感圧紙と実際の圧力による色見本から決めた分布です。
文献はMeasurement of contact pressure in pneumatic actuator seals (M.Conte氏他:2006年のInternational Conference on Tribology)
このように完全に合致はしていないが、全体としての傾向は見られます。
当然の誤差はありますし、FEMのソフトに入れる値にも問題がある場合もあります。
しかし、すべてを疑う必要もありません。今後の進歩により、FEMの得られるデータの信頼性は向上することには間違いはないと思っています。
4)CAEとの関連について
CAE (Computer Aided engineering :コンピュータ支援技術)とは、元々コンピュータ支援による製品の開発、設計から製造に至るまでを広く示したものであり、しかしながら、現在ではFEMを中心とする各種解析を行うことCAEと呼ばれる場合もありますので、同意語的に取れえても良いようです。
5)まとめ
現在はすべての業務でコンピュータがないと出来ないような状態になってきました。各産業でも同様です。
シールの設計でもこのようなFEM、CADなどを武器として大いに利用しないと他社との競争に打ち勝てない時代になりました。