オイルシールはシールの分野でも自動車用に使用されているので、数量も多く、認知されているシールです。
実は、オイルシールとは、国内ではその名称ですが、海外では、次のような名称となっています。
ISO 6194: Rotary shaft lip-type seals incorporating elastomeric sealing elements でシリーズ化されており-1から-5まで 完備されています。
現在、このISOはJIS化されてJIS B 2402のシリーズになっています。
JIS B 2402-1 第1部:寸法及び公差
JIS B 2402-2 第2部:用語
JIS B 2402-3 第3部:保管,取扱い及び取付け
JIS B 2402-4 第4部:性能試験方法
JIS B 2402-5 第5部:外観欠陥
形状は図1のものが代表です。(JISから)
図1 オイルシールの構造区分例
他方、このリップ部がゴムでなく、かつ、樹脂(PTFE)で構成されたものが、樹脂製オイルシールです。(当然、図1のようなバネは使用されていません)
構造例を図2に示します。
図2 樹脂製オイルシールの例(Seals and Sealing Handbookから)
ゴム製のオイルシールと同様にISOがあります。
ISO16589: Rotary shaft lip-type seals incorporating thermoplastic sealing elements で構成もISO6194と同様に5部構成となっています。(全くゴムと同じです。)しかし、国内ではJIS化されていませんので、標準品としても認知されていません。(今後も多分ないでしょう。)
案外、国内では、カタログアイテムとして見当たらないようです。
三菱電線工業株式会社では類似の製品としてサンフロンRLシールとして基本的に個々の受注に応じた製品として製造しています。標準サイズは無いことになります。
サンフロンとはPTFEの商標です。
以降はこの製品について紹介します。図3に製品の例を示します。
図3 サンフロンRLシールの例
では樹脂製オイルシールについて見ていきましょう。三菱電線工業株式会社のカタログを紹介します。
1. 樹脂製オイルシールとは
シールエレメントに特殊充填剤入りPTFEを使用した回転軸シールです。このシールエレメントにハイドロダイナミック溝などの特殊な加工をすることにより、ゴム製オイルシールでは使用できなかった過酷な条件下での使用が可能となっています。
注)ハイドロダイナミック溝とは、軸に当たるPTFEのリップ部に特殊な切込み溝{形状が螺旋溝の場合,漏れた流体を押し戻す(逆流させる)というハイドロダイナミック効果が得られ,低圧側への流体漏れを完全に防止できます。}
図4に断面図を示します。
図4 特殊樹脂製オイルシール(ハイドダイナミック溝の一例)
2. 特徴
- -60℃から+200℃までの広範囲な温度で使用可能
- 高速運転性能に優れ、条件によっては最高55m/sの周速でも使用可能
- 自己潤滑性を持っているため、摩擦抵抗が少なく、耐摩耗性に優れている
- ゴム製オイシールと比較して、耐圧性能、耐ダスト性能に優れている
- ハイドロダイナミック溝デザインは、耐久性に優れ、軸偏心に対する追随性が良好
3. PTFEの材料
PTFEは用途別により、特殊充填材が使用できる。一例ではカーボン繊維入り+特殊配合のPTFEなどがあります。
4. 実際の採用されている使用条件例
樹脂製オイルシールの形式は異なります。
1) スクリュータイプコンプレッサ
- 軸径Φ20~24mm
- 回転数3,000~35,000rpm
- 流体 エンジンオイル、空気
- 圧力 -0.07~0.1MPa
- 雰囲気温度 -40~150℃
2) クランクシャフト
- 軸径Φ50~200mm
- 回転数700~9,000rpm
- 流体 エンジンオイル
- 圧力 0~0.03MPa
- 雰囲気温度 -40~150℃
3) カーエアコン用コンプレッサ
- 軸径Φ12~15mm
- 回転数500~12,000rpm
- 流体 冷凍冷媒(ガス+オイル)
- 圧力 0.1~1MPa
- 雰囲気温度 -40~150℃
続けて樹脂製オイルシールについて見ていきましょう。(三菱電線工業株式会社のカタログの紹介の続きです)
5. 樹脂製オイルシールの機能特性
樹脂製オイルシールとフッ素ゴム及びシリコーンゴム製オイルシールとの比較試験結果を図5に示します。
試験条件は
- 軸径:60mm
- 回転数:9,000rpm(周速28m/s)
- 圧力:大気圧
- 試験油:エンジンオイル(SAE10CD/SE)
- 油温:120℃
- 試験時間:20時間運転4時間停止
20サイクル
なお、樹脂製オイルシールはハイドロスレッドタイプです。
図5 高速耐久試験結果
次に軸偏心量を変化させた場合の比較試験です。
試験条件は上記に次の要因を加えています。
- 軸偏心量:0.03,0.10,0.22mmTIR
その結果を表1に示します。
軸偏心性能試験結果
6. シール取付け部の注意事項
軸設計
- 軸材料及び硬さ
軸材料は、HRC40以上の焼き入れ鋼材を推奨です。ステンレス鋼等の特殊材料及び硬質クロムめっき等の表面処理は、使用条件によっては適さない場合があります。 - 軸寸法許容差
推奨範囲:JIS B 0401寸法公差及びはめあいの方式のh8 - 軸の表面仕上げ
推奨範囲:0.2~0.4Ra
なお、軸表面は送りをかけないグラインダ研磨の仕上げ - 軸偏心及び取付け偏心
表2を参照ください。
表2 許容偏心量の値
- 軸端加工
図6を参照ください。
図6 軸端加工
*シールエレメントの内径より小さくしてください。
- 軸の取付け
軸の取付けではシールエレメントの先端方向から軸を装着する場合及び軸端にスプライン、キー溝がある場合は、図7のような挿入冶具を使用してください。またシール取付け時は、シールエレメント及び装着軸に密封対象流体を薄く塗布してください。
図7 挿入冶具例
ハウジング設計
- ハウジング寸法許容差
推奨範囲:JIS B 0401寸法公差及びはめあいの方式のH8 - ハウジングの表面粗さ
推奨範囲:0.8Ra - ハウジング穴加工
推奨形状は図8によります。
なお、内圧が掛かる場合は、必ずスナップリング等の抜け止め加工を行ってください。
図8 穴加工の形状
7. 保管及び取り扱い上の注意
- 製品の保管は、出来るだけ密封状態で保管してください。開封状態で保管すると、金属部分に錆や腐食が発生する恐れがあります。
- 直射日光は避け、冷暗所に保管ください。
- 保管中にシールエレメントが変形しないように注意ください。
重ね置きなどで負荷がかからないことが重要です。 - 落下や外部からの衝撃により、シールエレメントに傷つく恐れがありますので、取り扱いには注意ください。
- 食品又は医療機器関連に使用は基本的には向きません。
- 有害ガス発生が恐れがありますので、
焼却処分はしないでください。
以上のように一般シール製品としては、特殊なシールなために、これら注意事項が重要ですので、特別に記載しました。
いずれにしてもシールメーカに事前に設計を相談して進める製品です。(標準設計品ではないためです。)