「Oリング(オーリング/o-ring)」とはコンパクトサイズで装着が容易なゴムの輪(リング)のことです。
Oリングの種類・サイズは豊富な上に低価格ですが
選択肢が多いので迷ってしまうかもしれません。
Oリングの耐薬品性は材質によってそれぞれ異なりますので、注意して選びましょう。
この記事では、耐薬品性Oリング(オーリング)を選ぶポイントとおすすめ製品をご紹介します。
耐薬品性を必要とする個所のOリング検討する際の4つのポイント
「Oリング」は断面が丸型のため「オーリング」と呼ばれています。
元々はアメリカで航空機の油圧系統のシールとして
ゴム製 Oリングが規格化されたことが始まりです。
現在、Oリングは気体、液体を密封するための部品として、家庭用電化製品、半導体機器、自動車、油空圧機器などに幅広く利用されています。
Oリングの特徴はコンパクトで小さく、シールには方向性がないので、広範囲の圧力に使用できます。
使用条件に応じてOリングの材質を決めると良いですがOリングは種類が豊富にありますので、ここからは選び方4つのポイントを見ていきましょう。
耐薬品性
まずは、Oリング材質の耐性をチェックする方法を見ていきましょう。
接触する流体(液体や気体)の影響により、ゴム材質は膨潤・溶出・分解といった現象が発生するため、シール機能が弱まることへの耐性を考慮することが大切です。
ゴム材質Oリングの耐性をチェックするには、使用条件の3つの要素「流体」・「温度」・「圧力」の全てに適合する材質が最適です。
▼流体(液体・気体)の条件
● 燃料油(灯油・軽油・ガソリン)にはフッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴム(NBR)がおすすめ
● 水には耐性のある材質が多く、シリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)がおすすめ
シール対象はリングと接触する流体です。ゴム材質と耐性などを確認して、化学的に耐性を持つ材質を選びます。
例えば、フッ素ゴム(FKM)、パーフロ(FFKM)などの材質は幅広い使用条件に適合し、相対的に高性能な材質ですが、使用条件の全てに対して最適なわけではないので注意しましょう。
▼温度の条件
● シール対象が油の場合は、流体と温度を別々に考慮して選ぶ
● シール対象が水の場合は、熱水や水蒸気の状態になると、常温水とは異なる化学的作用が発生するので要注意
使用温度に対して、十分な耐熱性や耐寒性のあるゴム材質を選びましょう。
例えば、無機酸類や無機アルカリ類の薬品は温度上昇に伴って活性度が上がるため、酸化性や腐食性を強化すべきです。
▼圧力の条件
● ゴムの硬度よって耐圧性は異なる
● 2~3MPaまでの圧力に対しては標準硬度(A70近辺)を選択する
● 圧力が3MPaを超える場合には、高硬度(A90近辺)の材質を選ぶ
● 耐圧性は硬度を見て選ぶのが一般的
● シリコーンゴム(VMQ)は物理的な強度が極端に劣る
注意点としては、高硬度の材質は柔軟性が落ちて、装着性や低圧条件では支障をきたすことがあります。
用途によっては、断面が丸ではないOリング以外の送り加硫品の選択肢もあるかもしれません。
シール対象からの圧力に対して、耐圧性を備えたゴム材質を選びましょう。
シール性
Oリングのシール性とは、内容物の漏出防止、内部への異物の侵入を防止する機能のことです。
Oリングはガスケットやパッキンにもなり、主に部品などの溝に設置します。
身近なところでは、蛇口にも使われており、蛇口が水漏れした際にOリングを交換した経験がある方も多いでしょう。
一般的に溝に装着して圧縮することで、ゴムの反発力により交互圧力から対象物を密封します。
Oリングの形状を元に戻そうとする力によって、気圧や水圧などの圧力を利用してシールする仕組みです。
Oリングの使用個所は必ず隙間が生まれて、密封流体の圧力が高くなると、隙間からOリングがはみ出し破壊され、密封機能が弱まるので要注意です。
材質はNBR(ニトリルゴム)が一般的ですが、使用環境や流体に合わせて最適な材質を選びましょう。
コスト
Oリングのコストは規格やサイズ、材質、メーカーによって異なります。
国内に流通しているメーカーはNOK、武蔵オイルシールやマスオカ、森清化工などが挙げられます。
ネット通販でも比較的低コストで入手できるOリングですが、同じ規格品でも名前や価格が異なるケースがあるので注意しましょう。
納期
Oリングを選ぶ際はOリングの使用量などを考慮して、短納期で入手できるかチェックしましょう。
規格外寸法のOリングは金型を製作するケースもあり、納期が長くなることがあるので要注意です。
納期は大切なポイントですが、品質管理体制があるかどうかも確認しましょう。
多くのサイズの在庫を取り揃えていて、在庫品があれば、即日出荷できる業者もあります。
Oリングの在庫が豊富にあり、低価格、即納してもらえるか要チェックです。
どのシールが最適か?
Oリングの特性は弾性があり圧縮永久歪が小さく、耐摩耗性と耐熱性に優れていることです。
適用される液体や気体に関わらず、寿命が長いことが理想的といえます。
一般汎用材から高性能なものまで豊富な材質がありますが、全ての流体(薬品)に耐性がある材質はありません。
ここからは、比較的幅広い用途で使えるOリングの種類をご紹介しましょう。
パーフロ
従来のフッ素ゴムを上回る耐熱性、テフロン・フッ素樹脂の持つ優れた耐薬品性を兼ね備えています。
完全にフッ素化されており、テフロンと非常に良く似た構造をしています。
従来のフッ素ゴムでは難しかった薬品にもパーフロは耐薬品性に優位です。
代表的な商品名であるカルレッツ®は米国デュポン社が開発したFFKM(パーフロ)材料であり、パーフロとカルレッツ®の大まかな特徴に違いはありません。
汎用のゴム材質では耐えることが難しかった使用環境でも対応できる高機能ゴム材質として人気です。
FFKM(パーフロ)材質は過酷な使用条件を想定し
耐薬品性・耐熱性・機械特性の全てに高い性能を保持しています。
デュポン社のカルレッツ®以外にも国内のOリングメーカーからオリジナルのパーフロ商品が販売されており、メーカーや品番によって価格帯や特性はそれぞれです。
エア・ウォーター・マッハ㈱からはエコーパーフロ、
グリーンツイード社からはケムラッツ、
桜シール㈱からはフロロパワー、
タガミシール㈱からはEXZEUSシリーズ、
ニチアス社からはブレイザー、
㈱森清化工からはモリセイパーシティーシリーズ
などという商品名で発売されています。
ラインナップによっては耐熱性(JIS K6262などの圧縮永久ひずみ試験の結果に基づく)は300℃の高温でも物性を保つ商品もあります。
極めて優秀な耐薬品性・耐熱性があり、機械特性にも優れたOリング用のゴム材質といえます。
パーフロのゴム材質は半導体のほか、多岐にわたる産業で導入事例があります。
(参考)パーフロとカルレッツ®の違い
上記パーフロの記事に記載しましたがパーフロというのが一般名称になりカルレッツ®は固有名詞となります。パーフロの分類の中の1つの商品がカルレッツ®という商品になります。カルレッツ®がパーフロ材の先駆け的な商品となっていることから違いをよく聞かれることもありますが、明確には同じになります。ただし従来からカルレッツ®を使われているお客様はその商品の信頼性からリピートで購入されるケースが良くあります。価格や特性は同じパーフロ材といっても様々ですので、もし気になる方がおられましたらお問合せください。各種回答いたします。
フッ素樹脂Oリング(テフロンOリング)
フッ素樹脂はテフロンやPTFEの通称で広く知られており、非常に高い表面潤滑性と耐薬品性に優れ、家庭用の厨房機器から最先端の宇宙機器に至るまで幅広く活用されています。
※テフロン®はデュポン社から独立した米国ケマーズ社の登録商標です。
シール材としての性能はゴム材質のような柔軟性や復元性、伸縮性はなく、圧倒的に劣ります。
最高温度域での継続使用は特性劣化が目立ち、最低温度域ではクリープ性能が極端に下がります。
推奨値は-150~250℃、推奨最高圧力は0.5MPaです。
溝構造によってはシール材としては取り付けられないことがあるので注意しましょう。
フッ素樹脂被覆Oリング
フッ素ゴムまたはシリコーンゴムをフッ素樹脂であるFEPまたはPFAで完全に包んだシールです。ジャケットOリングとも呼ばれています。
日本国内では製造しているメーカーはなく国内で流通しているフッ素樹脂被覆Oリングは輸入品となります。英国のNES社(ノーザンエンジニアリング)製NKリング、中国のバルカン社製VulcanカプセルOリングなどが国内では流通しています。
フッ素樹脂で被覆することで、耐薬品性や表面平滑性が通常のゴムOリングよりも強化されています。
高温下での長期連続使用が可能な耐熱性と油・溶剤・酸・オゾン等に対する耐性を兼ね備えています。
自動車や化学プラントの工業において従来の弾性体では耐えられない過酷な環境でもシール特性、耐久性を発揮します。
フッ素樹脂被覆OリングとカルレッツOリングのメリットデメリット
▽フッ素樹脂被覆Oリングのメリット
● テフロンのすべり性、耐薬品性、耐熱、耐寒性に優れている
● ゴムの最大特性である弾性もある
● パーフロよりも安価
▽フッ素樹脂被覆Oリングのデメリット
● 輸入品なので納期がかかる
● ゴムOリングに比べると硬い
● 被覆が破損する可能性があるため運動用には不向き
▽カルレッツのメリット
● 耐熱特性が高い
※200℃〜300℃でも長時間、圧縮永久ひずみが約50%以下を保持する
● 耐薬品性が高い
● シール性に優れている
▽カルレッツのデメリット
● 価格が高い
● 低温性が良くない(0℃までの使用)
● 線膨張係数が大きい
● 透過係数が大きい
フッ素樹脂被覆Oリングとは
ここでは耐薬品性に優れたフッ素樹脂被覆Oリングについて詳しく紹介していきましょう。
フッ素樹脂被覆Oリングの構造
被覆に使用される材質はFEPとPFAの2種類です。
FEP(4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体)は優れた耐薬品性、柔軟性に優れています。
PFA(4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)はFEPよりも耐薬品性・耐熱性に優れていますが、FEPに比べると若干硬いので柔軟性には欠けます。
中芯のゴム材はFKM(フッ素ゴム)とVMQ(シリコーンゴム)の2種類です。
FKM(フッ素ゴム)は標準材として使用されており、耐熱性に優れています。
VMQ(シリコーンゴム)は低温性に優れており、低温で使用する際に適しています。
断面形状は密閉性が良い標準型、締め付け力が小さい中空型、カムロック用の角型があります。
材質と耐熱性
▽フッ素ゴム(バイトン、FKM)
● 最も標準的なテフロン被覆Oリングのコア材
● 長期間の圧縮後でも復元する
▽シリコーンゴム(VMQ)
● 低温下、冷蔵、熱処理などの用途
● フッ素ゴムよりも反発応力が小さい
● ジャケット材の摩耗が少なく寿命が長い
▽FEP
● 最も一般的な材料
● 六フッ化プロピレンと四フッ化エチレン(TFE)の共重合物
● 気体の透過性が非常に小さい
● 摩擦抵抗は低い
● スティックスリップ現象を起こしにくい
▽PFA
● FEPと同様の性質
● 耐熱性についてはテフロンFEPより優れている
● パーフルオロアルコキシ基を有するフッ素樹脂
● 連続使用温度が260℃以下でシール性を保つ
各組合せによる耐熱性や取得規格について以下の表をご確認ください。
フッ素樹脂被覆Oリングの特長
フッ素、シリコーンゴム製のOリングをフッ素樹脂で被覆したOリングです。
フッ素樹脂の耐薬品性とゴムの弾力性を兼ね備えており、酸アルカリの環境でシール性を発揮します。
内部がゴムなので弾力性があり、接液部がフッ素樹脂のため、耐薬品性、すべり性に優れています。
開閉の多い箇所、動的シールとしては適していません。
溶融アルカリ金属、高温高圧下のフッ素化合物、高温高濃度の酢酸などでは腐食する可能性があります。
フッ素樹脂被覆Oリングが使用される場所
フッ素樹脂被覆Oリングは固定用での使用が推奨されています。
フィルターのカートリッジ、遠心分離機の蓋部などあらゆる薬品と触れ合う可能性があり、シール製(弾性)も必要な箇所に使われています。
信頼できるフッ素樹脂被覆Oリング「NKリング」
フッ素樹脂被覆Oリングは複数の種類がありますが中でもNKリングは信頼性が高く評価も高いです。英国ノーザンエンジニアリング社(NES)製で被覆Oリングメーカーの中で唯一被覆材のフッ素樹脂チューブと中芯のゴムの成形を自社で行っており互換性がよく品質の高さを評価されています。コタニ株式会社が1990年ごろから国内総代理店として発売しており、発売以来30年間重大クレームがありません。
NKリングの取得規格
NKリングは数多くの海外規格を取得しています。
・FDA
・USP classⅥ
・3A
・EC1935/2004
詳細は以下URLに記載しております。
NES社とコタニ
コタニでは英国ノーザンエンジニアリングとの出会いによりヨーロッパの会社からの輸入品が増えています。
英国ノーザンエンジニアリングのNKリングのほかスロベニアのドニットテスニット社など扱いがあり輸入する際に求められる海外規格を取得した商品を取り扱っております。
在庫状況
FEP被覆の規格サイズは在庫がありますが、受注状況によって在庫切れのときもあります。
詳しい状況は以下のコタニの公式ページにお問合せください。
▽コタニの公式ページ
まとめ
Oリングは色々な用途に対応する材料が規格化されており、サイズや価格も幅広く揃っています。
適正なゴム材料を選定することで水、油、空気、各種のガス、薬品にも安定した密封性を発揮します。
耐熱性や耐寒性などの温度条件、圧力条件など様々な条件が複合的に影響するので、よく比較検討しましょう。