乳牛とストレス

最終更新日: 公開日: 2023/11

牛は人間と同じく外的要因であるストレッサーから、ストレスを感じます。
例えば、気温や湿度、光(照明)など、原因は様々です。
そして一部のストレスは、乳牛の生活や生産性や健全性にも影響すると言われています。

つまり、乳牛にストレスを多く与えてしまう環境では、期待乳量を得ることができない可能性があります。
ひいては、期待乳量を生産できた場合/できなかった場合において、全頭や月間・年間などで換算すると大きな生産ロスとなりかねません。

そこで、このブログでは乳牛と環境性ストレスの関係や牛舎オーナーの方が対策できる乳牛のストレスについて、紹介します。

乳牛が感じるストレスの種類

まず、乳牛が感じるストレスの種類について、みていきましょう。

乳牛をはじめとする家畜とストレスの話題において、「アニマルウェルフェア(AW)」という考え方を無視できません。

農林水産省のHPによると、以下のように説明されています。

我が国も加盟しており、世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関である国際獣疫事務局(OIE)の勧告において、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されています。
アニマルウェルフェアについては、家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要であり、結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながることから、農林水産省としては、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた家畜の飼養管理の普及に努めています。

出展:農林水産省『アニマルウェルフェアについて

「快適性を配慮した家畜の飼養管理」を目的としたアニマルウェルフェアの考え方が広まり、日本国内においても旧態依然の飼養管理方式が見直され始めています。

EUや北米、オーストラリアなど国外ではアニマルウェルフェアの意識が日本より進んでおり、法律・規約の制定が進んでおります。
例えば、輸入搬送時の動物周囲の温度管理(5~30℃)や、過密飼育についてなどです。

このように、現代において動物とストレスの課題は全世界的にも重要性が高まっております。

暑熱によるストレス

乳牛は人間よりも暑熱(暑さ)のストレスを感じやすい動物と言われており、多数の文献が発表されています。
つまり、人間とは異なった暑さ対策が必要となります。

気温20℃程度から、早退温度と組み合わさることでストレスを感じ始め、以下のような兆候が表れます。

  • 飼料摂取量の減少
  • 乳量の減少
  • 気温・湿度が一定を超過すると乳量が減少することは有名であり、しばしば下表のような「THI」という温湿度指数で示されます。
    一般社団法人 家畜改良事業団 相原氏は『新しい牛群検定成績表について(その78)』にて、下表のTHI指数が71以上となると、乳量/受胎率/体細胞数などに影響すると解説されています。

     

          

    温度、湿度から求めたTHI

    出展:酪農PLUS+『酪農現場における暑熱対策

  • 体重減少
  • 免疫力低下
  • 呼吸数の増加

これらのストレス軽減を狙った冷却による解決策として、以下のような例が提言されています。

  • 換気送風機/扇風機の設置
  • 細霧ミストの設置

問題提議がされてから長らく経過する「気候変動」も、乳牛への暑熱に関する悪影響に拍車をかけています。
牛舎や牧場オーナーは、乳牛のストレス軽減のためにも恒久的な管理改善が求められます。

寒冷によるストレス

乳牛は、比較的寒冷に強い動物です。

牛は4つの胃を有しており、第一の胃ことルーメン(牛肉ではミノと呼ばれる部位)において、棲息する微生物が、食物繊維などを発酵させ、その分解産物を乳牛は栄養素として吸収します。
この第一の胃での発酵時に生じる熱エネルギーのおかげで、寒冷に強いと言われているのです。

しかしながら、熱的中性圏と呼ばれる適切な雰囲気温度があり、下表の下臨界温度を下回ると、寒冷ストレスを受けます。

各区分における下臨界温度
区分 下臨界温度(℃)
哺乳牛 9
育成牛 0
泌乳牛 -24
乾乳牛 -14

寒冷環境では体温維持の目的で熱エネルギー生産量も増加するため、エネルギー摂取量を与えることなどの対策が挙げられます。

騒音によるストレス

牛舎と言えば郊外のイメージが根強いかと思われますが、都市近郊でも酪農経営はされています。
都市近郊の牛舎においては、高速道路や住宅などの工事による騒音ストレスが想定されます。

例えば山口大学農学部の小田教授は、『騒音が家畜の生理生態に及ぼす影響』(1979)において、競艇場から500m離れた位置の牛舎で乳牛への騒音ストレス実験をされています。

上記研究によると、競艇閉会時期には1日あたり15~17Kg泌乳していたが、競艇開催中は5.7~7.5kgへ大きく下落したそうです。
下のグラフは、その実験結果を論文より引用したものです。

競艇の騒音による泌乳量の変化(3頭)

乳牛の個体差によって騒音の感受度も異なり、また3頭からのみのデータとなりますが、参考になり得るのではないかと思います。

過度な騒音は、他ストレスと同様に乳生産量の減少飼料摂取量の減少を招きます。
また騒音により牛が不安や恐怖を感じることで、十分な睡眠がとれない可能性もあります。

光(照明)によるストレス

最後は光(照明)によるストレスを紹介します。

農林水産省より通知されている『アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について』(令和2年3月16日付)によると、照明に関して以下の記載がございます。

各畜種の習性に応じた十分な光量が確保されるよう、自然光に加え、 照明を適切に使用し家畜に不快感を生じさせないようにすることに留意する。

上記アニマルウェルフェアの通知にあるように、快適に過ごせる適切な照明器具を選択することは、
乳牛を飼養する牛舎オーナーにとって避けられないテーマ
です。

広島大学が発明し、弊社と特許権を共有している『育成牛の飼育方法』(特許第6977203号)では、強いブルーライトを発するLEDの悪影響について触れております。

尚、ブルーライトが乳牛へ及ぼす悪影響としては、以下が挙げられます。
  • メラトニン(睡眠ホルモン)分泌抑制による概日リズムの崩れ
  • コルチゾール(ストレスホルモン)分泌の増加

乳牛のストレスが減るメリット

これまで紹介してきたように、乳牛がストレスを感じることで、短命化乳量の低下免疫力の低下などを引き起こしてしまうとされています。

しかし、逆を言えば、乳牛へのストレスを軽減すればするほど、下記のメリットを期待することができます。

  • 長命連産性による生涯生産量の増加
  • 例えば、乳牛の苦手な夏場では暑熱の影響で乾物摂取量が減ると同時に、乳量低下につながります。
    つまり、乳量低下防止に努めることは、牧場全体のコスト競争力を高めます。

  • より早期の投資回収
  • 1頭当たりの総生産乳量が多ければ多いほど、投資コストの回収が容易であると言えます。
    但し、ストレス軽減のためにも別途投資が必要である点は、明瞭です。

  • (ストレス環境下の乳牛よりも)長寿命化
  • 社会的信用度の向上
  • ストレス軽減対策の多くは、アニマルウェルフェア遵守の行動にも繋がります。
    こういった社会的責任を果たすということは、年々広まるアニマルウェルフェアに賛同する団体や消費者へのアピールともなり得ると予想します。

広島大学 杉野教授によるコメント

酪農業分野において乳牛飼養管理学の専門家である広島大学大学院統合生命科学研究科 杉野利久教授より、表題でもある「乳牛とストレス」についてコメントを頂戴しましたので、下記もご参考いただければ幸いです。

杉野教授

生産性は,乳牛の健全性,牛舎の快楽性などを担保して始めて向上するものと思います。
ストレス要因を制限のある中で可能な限り軽減できれば,その分,乳牛は応えてくれますし、結果的に収益にも戻ってくると思います。

弊社と共同研究させていただいており、過去にも記事を執筆いただいておりますので、是非ご覧ください。

牛舎に適した照明 インダクションライトとは

ここまで乳牛とストレスについて紹介してきましたが、当社が注目したのは、照明のストレスです。
中でも、ブルーライトが少ない乳牛に優しい照明 インダクションライト(無電極ランプ)です。

インダクションライトとは

蛍光灯のランプ内に入っているフィラメント・電極は、消耗品のためいずれランプの交換が必要となります。
インダクションライトは、ランプ内に消耗品そのものが含まれていない照明のため、「無電極ランプ」とも呼ばれます。「インダクションライト」も同じ製品群とお考えください。

特徴① ブルーライトが少ない

光(照明)のストレスで紹介したように、ブルーライトが多い照明はコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌を刺激するため、アニマルウェルフェアに反していると言えます。

下図は照明ごとの波長域を示したもので、水銀灯・インダクションライト(無電極ランプ)・LEDを比較しています。
ブルーライトの波長域は、約380~500nm程度と言われていますので、インダクションライトはLEDよりも比較的にブルーライトが少ない照明です。


従来5m以上の天井高で設置されることが多かった水銀灯は、ブルーライト波長の強度に関して然程問題ではありませんでした。
しかし水銀灯の製造・輸出入が決定したことも相まってLEDの普及が進んだことで、人と同様に乳牛にとってもまた、ブルーライト問題は無視できない存在となっています。

実際、インダクションライトはLEDよりもブルーライトが少ないという事実が決め手となって、牛舎様へご採用いただくケースが増加しております。

特徴② 長寿命

従来使用されていた水銀灯より長寿命のため、一度取り付けると、照明交換頻度を低くすることが可能です。

寿命を含め、水銀灯との比較をまとめましたので、下表を参考としていただければと思います。

インダクションライトと水銀灯の比較
インダクションライト 水銀灯
定格寿命 60,000~100,000時間 12,000時間
消費電力 150~200W 400W
省エネ効率
(水銀灯の約1/2~1/3)
×
点灯性 約1~2秒 約5~10分

特徴③ 目に優しい照明

目に優しい明かりという点も特徴的です。

LEDは指向性が強い直進的な光により、牛舎内で作業される方が眼精疲労を感じられる可能性があります。
一方、「インダクションライトは目に優しく直視してもあまり眩しくない」というお声をよくいただきますので、作業員の方にとっても作業しやすい照明です。

目に優しいという特徴は、実際に見ていただくと「分かりやすい!」と好評ですので、デモ機のレンタルサービスで、是非光の質をお確かめいただければと思います。

牛舎オーナー様のお声

有限会社藤岡牧場様(兵庫県小野市)

コタニさんのインダクションライトは防塵・防水仕様なので、
照明に積もった埃・塵を水で掃除できたのはうれしい!

某北海道牛舎オーナー様

乳牛にとって良い照明とは前から聞いていましたが、
光が目に刺さりづらいので、現場作業しやすかったです!

インダクションライトのお問い合わせについて

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

インダクションライトを牛舎に導入いただくと、
乳牛だけでなく、牛舎内で作業されるスタッフの方にとっても環境改善へつながります。


弊社は杉野教授とランプの配置を相談し、お客様の牛舎環境に合わせたベストな提案をすることも可能です。
その際は下図のように、設置イメージを二次元に可視化した「照度シミュレーション」も作成いたしますので、ご興味ある方は下記お問合せフォームよりご相談いただけますと幸いです。

某牛舎様照度シミュレーション
【執筆者:Y.N.(一般社団法人照明学会 照明コンサルタント)】

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