1 はじめに
皆様は表題の言葉はご存知でしょうか。
英語で書きますと「Fractography」となります。通常破面学とも言われることがあります。
機械部品や構造物が破壊によって損傷した場合、その破面には破壊発生のはじめから最終破断に至るまでの、破壊の過程の痕跡が全て残されています。
従って、これらを調査することにより、破壊の機構、あるいは、原因に関する情報が得られることができます。
この破面解析をフラクトグラフィと呼ばれています。
しかし、これらの歴史はあまり古いものではなく、特に高分子材料については、まだまだ深く追求されていない状況だと思います。
考えてみますと、破損したものを観察して、使用状況と照らし合わせて、破面の状況との総合判断する一つの品質的な、また、トラブル究明の手段としては案外有効な方法です。
シールの場合も以前に説明したことがありますが、トラブル品を良く観察することにより、過去のトラブルと類似のものがあれば、そのパターンと比較することの一環であると思ってください。
金属の場合には、非常にこの分野は進んでいるようです。特に、最新の分析機器類の進歩とともに破面を鮮明な見ることが出来るようです。
それら機器類には
- 透過型電子顕微鏡(TEM)
- 走査電子顕微鏡(SEM)
などで、ミクロ的、マクロ的に表れる破面を分類して、その代表に名称をつけて分かり易くなっています。
これらの一種の現れるパターンの名称は次のゴムや樹脂の破面での解析にも同様な分類や呼び方がされています。
これらの代表的なものを下図に示します。
疲労破壊による破面の例(マクロ的解析)です。資料は東京都市大大学の工学部のものを引用しています。
新シール概論(66)(フラフトグラフィにいて)
2.ゴム材料についてのフラクトグラフィについて(図書の紹介)
ゴムを含む高分子材料での研究はあまり無く、有効手段として活用される機会も少なかったのも事実です。
しかし、最近専門書が発行されていますので、ご興味のある方は、勉強ください。
株式会社 技術情報センター
「高分子材料のフラクトグラフィ」
山形大学 成澤名誉教授 編集で価格は63,000円です。
役に立つのは、ゴム、樹脂製品などに掛かっている品質部門や材料部門の人達と思います。(当然、シール製品への展開も可能だと思います)
トラブル解明の一手段であり、これが当然すべてではありません。
これ以外の専門書はありますが、高分子関連としては他には少ないと思っています。
ただし、高くて購入しておりませんが、タイトルを見る限り相当細部にわたり書かれているようです。
3.ゴムのフラクトグラフィの作成方法について
この手法について詳しく述べている文献があります。
「ゴムの破面観察」著者:川村氏、原島氏の文献です。(コマツ)
ゴム材料の破損について
- 物理的破損
- 1) 引張、引裂き
- 2) 疲労-屈曲、ねじり・圧縮、伸張
- 3) 低温脆化
- 4) 摩耗
- 化学的破損
- 1) オゾン、熱(油劣化)
と分類している。
次に、それぞれの事象をシール・製品などを用いて、実際に試験を行い、破損を起こさせている。
実現できたゴムの破損面をSEMなど用いて、そのパターンを観察した上、関連付けを行っている。
非常に時間が掛る実験ですが、丁寧に行っています。
前に述べていますが、金属の破損パターンと対比させながらゴムの破損面の分類を実施している。
詳細は省略しますが、このゴム材料のフラクトグラフィとしては、貴重な調査と言えます。
ゴム材料のトラブル発生後の調査として、有効な手段となります。
よくシールなどのトラブルが発生した場合、その破損品を十分に調査して、解明するためには、過去の経験が必要と言われるが、これらは多分このような破損面のパターンなどが記憶(記録)していることが多いと思っています。
それらのデータが集積されれば、実際の問題の解明に役立つようになるでしょう。